石が多いと、なぜロウリュが変わるのか。
シリンドロは、フィンランド中部のムーラメにあるハルビアの工場でつくられているサウナヒーターです。フィンランド製であることを示す「Avainlippu(鍵旗マーク)」も取得しており、サウナの本場で生まれ、本場でつくられた一台だと言えます。
外観でまず目を引くのは、円筒形の胴体です。一般的なサウナストーブは箱型で、上面の受け皿に石を並べる形が多いのですが、シリンドロは筒そのものが石のかごになっていて、石を縦方向に積み上げます。同じ設置面積でも高さ方向を使えるぶん、石をたくさん抱え込める。この一点に振り切った形です。
本体はステンレスの二重構造で、内側と外側のあいだに空気の通り道を持たせてあります。この隙間を空気が下から上へ抜けていくので、本体の耐久性を保ちながら、サウナ室の空気そのものがよく動きます。石をたくさん積むと温まるのに時間がかかりそうに思えますが、この空気の流れがそこを補ってくれる設計です。
ここからが本題です。ロウリュ、つまり熱した石に水をかけて蒸気を出す行為は、物理的に見れば「石にためこんだ熱を、水を蒸発させるために使う」作業にほかなりません。
水は、液体から気体に変わるときに大量の熱を吸い取ります。やかんの湯が沸きはじめてもなかなか空にならないのと同じで、水を蒸気に変えるには、水を温めるとき以上のエネルギーが要ります。そのエネルギーは、石にたくわえられていた熱から持ち出されます。
石が少ないヒーターだと、この「熱の貯金」が小さくなります。柄杓一杯の水をかけた瞬間に石の表面温度がすとんと落ちてしまい、水が蒸気になりきる前に熱が足りなくなる。結果として出てくるのは、勢いのない、湿っぽくて生ぬるい空気です。二杯目、三杯目と続ければ、温度はさらに下がっていきます。
「かければかけるほど、なんとなく寒くなっていく」。そんな感覚に覚えのある方は、石の量が足りていなかったのかもしれません。蒸気が弱るというのは気分の問題ではなく、熱量の収支の話なのです。
では石をたっぷり積むとどうなるか。話は単純で、熱の貯金が大きくなります。
電気式のシリンドロ6(PC60E)は、出力5.5kWの本体に最大80kgのサウナストーンを積めます。上位のシリンドロ プロ132(PC132E)なら最大140kg。同じ一杯の水をかけても、抱えている熱が大きいぶん、石の表面温度の落ち込みが小さくて済みます。水は無理なく蒸発しきり、細かい蒸気になって上へ立ちのぼる。この「温度が落ちきらないまま蒸発が進む」状態こそが、まろやかで奥行きのある蒸気の正体です。
もうひとつ効いてくるのが、水と触れる面の多さです。石が縦に積み上がっていると、上からかけた水は一番上の石だけで終わらず、隙間を伝って落ちながら次の石、その次の石と触れていきます。触れる石の数が多いほど、水は分散して穏やかに蒸発します。逆に石が少ないと一箇所に水が集中し、ジュッと弾けて荒い蒸気になりがちです。
そして、続けざまにロウリュできるようになります。二杯、三杯と重ねても室温が崩れにくいので、自分のペースで蒸気を足していける。この余裕が、入っているあいだの心地よさをかなり左右します。
フィンランド本国のラインナップには、薪で焚くシリンドロもあります。サウナ室6〜13立方メートル向けの「Cilindro16」と、10〜24立方メートル向けの「Cilindro20」の二機種で、最大120kgの石を積めるとされています。保護パネル、煙突カバー、給湯タンク、保護ベース、サウナストーンといった周辺部品もそろい、薪の炎で石を焼く、いかにも本場らしい構成です。
ただし、この薪式のシリンドロは日本国内では取り扱いがありません。誤解のないよう、はっきり書いておきます。「本国にはこういうモデルもある」というご紹介であって、お求めいただけるものではありません。
私たちD'STYLEが日本でお取り扱いしているシリンドロは、電気式の三機種です。石を80kg積めるシリンドロ6(PC60E)、13.2kWまで出力を上げたシリンドロ プロ132(PC132E)、そしてシリンドロ プロ26(PC260E)。熱源は薪ではありませんが、円筒に石をたっぷり積み上げるという設計思想はまったく同じです。ここまで書いてきた蓄熱の話は、そのまま電気式のシリンドロにも当てはまります。
岩手でサウナを考えるなら、蓄熱の大きいヒーターは素直に有利です。秋田や青森でも事情は変わりません。
冬の盛岡や県北では、氷点下の日が何日も続きます。サウナ室は人が出入りするたびに扉が開き、そのつど冷たい空気が入り込みます。給気口から入ってくる外気も冷えきっています。石の少ないヒーターだと、そのたびに室温が落ちて、なかなか戻ってきません。石をたくさん抱えたヒーターは、いわば熱の緩衝材を持っているようなもので、扉の開け閉めや外気の流入に対して室温が粘ってくれます。
雪国ならではの注意点もあります。屋外にサウナ小屋を設置するなら、給排水の凍結対策は欠かせません。使わない期間の水抜き、配管の保温、床の水勾配。ここを甘くすると、春になって配管が破れていた、という話になります。積雪で扉が開かなくなる位置に出入口をつくらない、といった配置の工夫も要ります。
電気式のシリンドロには、単相200Vまたは三相200Vの専用回路が必要です。分電盤の空き容量とコントローラーの位置は、設置前にかならず確かめておきたいところ。既存の住宅に後付けするなら、電気工事の計画までまとめて考えるのがおすすめです。
最後に、石そのものの話をしておきます。サウナストーンは消耗品です。
石は加熱と急冷を延々と繰り返されます。高温になったところへ水をかけられるわけですから、内部に細かいひびが入り、やがて割れて崩れます。崩れた石は粉になって隙間を埋め、空気の通り道をふさいでしまう。そうなると熱が回らなくなり、蒸気も出にくくなり、ヒーター本体の負担にもなります。
私たちは、使用頻度にもよりますが年に一度は石を全部おろして積み直すことをおすすめしています。割れた石を捨て、大きさをそろえ、隙間を残しながら積む。ぎゅうぎゅうに詰めないのがこつです。空気が通らなければ、せっかくの縦積み構造が活きません。石は必ずサウナ用のものをお使いください。河原で拾ってきた石は、内部の水分が膨張して破裂する危険があります。
シリンドロ6には、コントローラーとサウナストーンが標準で付属します。とはいえ、入れ替え用の石や、設置環境に応じた部材が別に必要になることもあります。何がどれだけ要るかは、現場を見ないと決まりません。
サウナストーブ選びは、つい出力の数字とサウナ室の広さの表を突き合わせる作業になりがちです。けれど実際に入ったときの気持ちよさを決めているのは、石をどれだけ抱えられるか、その熱をどう使うか、という地味な部分だったりします。円筒形のシリンドロは、そこに正面から答えを出した形と言えます。
D'STYLEは岩手県盛岡市で長く薪ストーブを扱ってきた会社で、ハルビアの正規代理店として、サウナのご提案から設置工事まで一貫してお引き受けしています。盛岡のショールームでは実際の熱を体感していただけます。「うちの間取りで置けるのか」「電源はどうすればいいのか」という手前の疑問から、どうぞお気軽にご相談ください。
記事で触れた商品は、当社で取り扱っています。適合機種のご相談も承ります。
11機種の寸法データを1枚の表に。
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